子どもが双子の男の子であることは早い段階からわかっていたので、出産後も何かと大変だろうと里帰り出産することになり、由香のお腹が目立ち始めた頃、由香は金沢の実家に戻った。僕もその方が安心だ。
由香が里帰りしてからは、僕は週末は欠かさず金沢で過ごした。金曜日の仕事が終わってからでも、新宿駅南口から出ている23時発の夜行バスに乗れば、翌朝の7時過ぎには金沢駅に到着する。バスの中では寝ていればいいだけ。駅には弟が車で迎えに来てくれる。弟に由香の実家まで送ってもらい、着けば二人分の朝食が用意されていて、弟もそこで腹ごしらえをした後、一息ついてから自分の家に帰るというパターンがいつの間にかできあがっていた。僕はそのまま由香の家に泊めてもらい、翌日の日曜日は午後ちょっとだけ自分の実家に顔を出してから東京に戻るという生活がしばらく続いた。
双子を身ごもった由香のお腹は想像以上の大きさになり、週末は僕がつきっきりで由香のサポートをした。サポートとは言っても、話し相手になったり、一緒にテレビやDVDを見たり、近所を散歩したりといった程度だが…。由香のご両親は僕が行くといつもごちそうでもてなしてくれるので、由香の里帰り中、僕は5キロも太ってしまった。
事前に帝王切開の可能性も言われていたんだけれど、10月10日、由香は無事に自然分娩で双子の男の子を出産した。僕がその日、産気づいたという連絡を受けてすぐさま会社を早退して新幹線で金沢に駆けつけたところ、病院に着いた時にはもう生まれていた。できれば出産に立ち会いたかったけどそんなことはどうでもいい。とにかく母子ともに無事で健康でいてくれたら充分だ。
「よくがんばったね。お疲れ様」
相当疲れたはずなのに、晴々とした表情の由香の顔には満足感と母親になった自信が芽生えているように見えた。
出産から4ケ月経過してもふたりの息子と由香は東京に戻ってこなかった。とっくに由香の体力も戻り、息子たちも順調に育っていたんだけれど、由香の両親がなかなか手放したがらなかったんだ。大地(だいち)と海斗(かいと)と名付けられた息子たちは日に日にかわいさが増量してくるし、義父母さんの気持ちもよくわかるんだけど、僕だってそれは同じだし、いつまでもそのままというわけにもいかないし、何より僕の実家から、嫁の実家が孫を独占していることに対する不満がくすぶり始めたので、事がこじれる前にやや強引に3人を東京に呼び戻した。こうして我が家4人の東京での生活が始まった。
男の子をふたり同時に育てるというのは想像以上に大変だ。機嫌の良い時はいいけれど、片方が泣くとシンクロしてもう片方も泣き出すし、お腹がすく時間は大体同じでも、オムツ交換やオネムのタイミングまでは合わせてくれないし、買い物するにも由香ひとりで双子を連れて出かけるのは、ふたり乗りのベビーカーを使っても至難の技だ。
歩き出すようになってからは、いつどこに行くかわからないふたりを同時に見るのがさらに難しくなった。だんだんと自己主張するようになるとひとつのものを奪い合ったり、同じものなのにお互いの持ち物を欲しがったり、ケンカすることも多くなる。日に日に成長するから毎日できることが増え、それに比例してしでかしてくれることも増えていく。ちょっと目を離した隙に、キッチンの引き出しにあった全ての調味料の袋の中身を盛大にぶちまけてくれたのには参った。なぜかそういうことは必ずふたり協力してやってくれるのが不思議だ。
僕が帰宅すると、子ども達を寝かしつけたまま由香も一緒に寝落ちしてしまっていることがよくある。相当疲れるんだろう。それでもチンすればすぐに食べられるように僕の夕食が欠かさず用意されているのは本当に頭が下がる。
僕の仕事が休みの日はできるだけ由香を休ませるために育児を引き受けるようにしているんだけど、そうすると今度は僕自身がゆっくり体を休める時間がなくなる。そんな時、金沢から定期的にお互いの母親が代わりばんこに子育ての助っ人として上京してくれるのは僕も由香も本当に助かっているし、ふたりの母も夢中になれる事ができて以前よりイキイキしてきたようにも感じる。