美帆は月水金の週3回、駅一つ離れたドラッグストアで朝から夕方までレジ打ちのパートをしている。月に8万円程度の稼ぎは、小百合のピアノの月謝以外は今後の教育費として美帆が管理することになっているが、その一部はWOODYと会うときの小遣いにもなっているのだろうか。
教育費用に娘の小百合名義でつくった通帳を見ると、毎月欠かさず5万円が積み立てられていた。ピアノの月謝が月8000円なので、給料との差額は化粧品や美容院など、自分のことに使っているのだろう。
探偵に美帆の素行調査を依頼する方法もあるが、自分でもいろいろ調べる方法はありそうだ。まずは真一自身で慎重に証拠集めすることにした。
こうなったら手段を選んでいる場合ではない。美帆のスマホでWOODYとのやりとりを確認するのが手っ取り早いだろうと、美帆の入浴中にこっそり探ってみたが、すでに画面ロックが施されていてやりとりを見ることはできなくなっていた。あの日はたまたま機種変更直後で、まだ画面ロックの設定が済んでいなかったのだろう。もしかしたらそれをやろうとしている間に寝落ちしたのかもしれない。幸か不幸か、そのわずかなタイミングで真一がWOODYからのメッセージを見てしまったということだ。
また、真一がたまたま家でひとりになった時、何か証拠になるものはないかと美帆の服や下着、身の回りの品を物色してみたが、特別なものは何も見つからなかった。美帆はWOODYとの関係が絶対にバレないように、細心の注意をはらっているようだ。
ではどうするか。
ふたりの逢引は火曜日で間違いなさそうなので、そこを狙う手がある。ただ、どの火曜日になるかが事前にわからない。どのぐらいの頻度でふたりは会っているのか…。ひとつ言えそうなのが、美帆が生理の時は避けるだろうということ。それがわかれば少しは絞りこむことができる。
「昨日から会社を休んでいる女子社員がいるんだけど、その理由が生理痛なんだよ」
「生理って人によってかなり重い軽いの差があるのよ」
「美帆はそんなに重くないよね?」
「そうね。私は軽い方だと思うけど、始まってから終わるまで1週間ぐらいかかるかな」
「その女子社員はすごく不規則で本人も困ってるんだけど、美帆は周期は規則正しい方なの?」
「私はわりと安定してるよ。先月は確か18日からだったから今月はもうそろそろかな」
ということは、来週と再来週の火曜日はなさそうだ。けれどももし真一が自分で尾行するとしたら会社を休まなくてはならなくなるのでもっと絞りたい。日を改めて他の角度から攻めてみよう。
「今度の日曜日はモデルルームへの応援があるので出勤なんだ。その代休を取れるんだけど、美帆もパートが休みの日にもらおうかな。木曜はピアノだから火曜がいいのかな?」
「う〜ん、火曜日なら30日がいいかな」
「俺は23日でも来月の7日でもいいよ」
「7日は用事が入るかもしれないから私は30日がいいな」
「7日は出かけるの?」
「うん、あの、えと、まだ決まってはいないんだけど、ほら、こないだ話した岡崎さんにまた誘われるかもしれないの」
その時、美帆がわずかに動揺した様子で一瞬目をそらしたのを真一は見逃さなかった。
「そう、わかった。じゃあ30日にするね。3人でどこかに出かけようか」
直近の火曜日と次の火曜日は美帆が生理中で逢引は無いと仮定すると、今の返事から推測するに、次にWOODYと会うのは7日が濃厚だ。5日の日曜日に美帆が美容院を予約したと言っていたのも逢引に関係があるのだろう。
その日は朝から雨が降っていた。会社に行くと出かけた真一は、近くのコンビニのトイレで前日会社帰りに買ってきたコートに着替えるとすぐさま戻り、マスクを着け、真一一家の住むマンションのエントランス前の、道路を挟んだ反対側の死角となるポイントで待ち伏せをした。
しばらくして、まずは小百合が小学校に出かけて行った。それから約10分後、マスクをした美帆が出てきた。『思った通りだ』真一は自分の脈が速くなっていくのを感じた。