埼玉県の離婚弁護士 レンジャー五領田法律事務所

妻を寝取られた男⑨

妻を寝取られた男

それから10日ほど後、たまたま仕事で品川方面に来ていた真一は、特に理由はないが林のいるドラッグストアをのぞいてみた。林の姿は見当たらない。と、こないだヘマをしたアルバイト君が見つかったので声をかけてみた。

「林店長は休憩中ですか?」
「いいえ、林店長は先日退職しました」
「え?異動とかではなく?」
「ええ、突然ご兄弟の介護が必要になったとのことで。つい数日前です。林さんに何かご用でしたか?」
「いえ、特に用は…。そうだったんですか。ありがとう」
《なんてやつだ。美帆との関係を完全に切るために仕事を辞めやがった。あの年で再就職は大変だろうに》
きっと携帯の番号も変えてしまっているんだろう。林は決して逃げたのではなく、美帆のために姿を消したのだと真一は思った。訴えられたり慰謝料を請求されるのをおそれたという見方もあるだろうが、林は自分がきっぱりと身を引くことで、美帆と家族をこれ以上混乱させないように彼なりの筋を通したのだろう。きっとそうだ。

そんなことを考えながら突っ立っていた真一に店員が声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「え?あ、あの、最近疲れ目…じゃなくて、いえ、ちょっと風邪気味で…」
「風邪薬はこちらです」
40代の疲れ目用目薬は二つも三つも必要ないが、風邪薬なら余計に常備しておいてもいいだろう。真一は目についた風邪薬を一つ購入して店を出た。

会社に戻るために駅に向かう途中、なにげなく目にとまった一軒のケーキ屋に真一は立ち寄った。お客さんで賑わう人気店のようだ。真一はそこで見た目が少し豪華で上等なケーキを3ピース買った。

ひとつは娘の小百合に、
ひとつは甘党の自分に、
そしてもうひとつは愛する妻、美帆のために。