埼玉県の離婚弁護士 レンジャー五領田法律事務所

【男たちのコラム】ジョニーは逝ってしまった

休暇で日本に帰って来たとき、ジョニーが「ハプニングバーに行かないか?」と誘って来た。もちろんフランスにはそんなバーはなかった。部隊の奴らにいい土産話が出来ると思い、俺は奴について行った。雑居ビルに2階にあるその店には看板はなく、ノックをすると重厚な鍵が外される音がして、出て来た店主が言った。「入場料は1万円です。一つだけ条件があります。もしも女性がプレイを求めてきた場合は絶対に断らないで下さい。」と。俺は面白いと思い、ジョニーとともに店に入った。店内は意外にも普通のバーだった。20代後半から30代を中心に、男女が入り混じってただ酒を飲んでいた。カウンターに座り、ビールを注文して乾杯をしようとしていた時、「ねぇ、プレイしない?」と言う声が聞こえた。妙に嗄れた声だった。後ろを向くと懸命に若作りをした50代後半の白地にピンクのロゴが入ったミジェーンを着た女が立っていた。店主を見ると先ほどの柔和な表情とは違った面持ちでグラスを拭いている。正直言って、俺は蒼ざめた。だが、その女は俺ではなく、横に座るジョニーを見ていた。ジョニーはその女にエスコートされ、店の端に用意されたマジックミラー越しの空間に連れて行かれた。瞬く間に服を脱がされたジョニーの斜腹筋は見事に蠕動し、奴の誠実さを奏でている。気付くとさっきまでただ酒を飲んでいた者達が俺の後ろに立っていた。ジョニーは3秒後にダイビングボディプレスを仕掛けられるプロレスラーのように仰向きにされ、虚空を見上げた。鹿のように無表情な顔とは裏腹に、ジョニーのコックは天井に向けそそり立って行った。女はそのコックに自らのクイムを練り込ませ、まるで妖怪のような小気味いいリズムのグラインドを始める。暫くして、ジョニーは不意にレバーを打たれたボクサーさながらの呻きを挙げ、逝った。女はジョニーのコックを口で綺麗にすると、「よかったわ。」と言って、タイムスリッパーのように静かに暗闇に消えて行った。暗闇に消える瞬間の女は少しだけ若返ったように見えた。賞賛を惜しまない観客の前でジョニーは俺にこう言った。「1ラウンド持たなかったよ。」と。俺たちがまだ20代だった時の話だ。

最近ふと人伝に、ジョニーが死んだと聞いた。ケンカの仲裁に入って刺されたそうだ。ジョニーは本当に逝ってしまったのだろうか?ひとつだけ確実に言えることは、あの時、奴は本当に勃っていたということだ。俺が男と聞いて思い出すのは、ジョニーのあのときの姿だ。翻っていえば、男の価値はそこにしかないのかもしれない。俺はもう二度とジョニーに会うことはない。