埼玉県の離婚弁護士 レンジャー五領田法律事務所

スーパー☆(スター)弁護士⑦

スーパー☆弁護士

「いやぁ、災難だったね。野犬に襲われたようなものだね。最近の子供は大人しいと聞くけど、そんなことないね。」
 目を開けると僕は近所の総合病院のベッドに居た。両足は中世ヨーロッパの拷問器具のように宙吊りになっており、その間に包帯越しにも分かる瓜のようになった僕の睾丸があった。
「竿は無事だったんだけどね。これ手術したばっかりでしょう。綺麗な縫い目だなぁ。睾丸は酷くやられてるよ。一時は摘出も考えたが、ま、何とかなる。」とその医師は言った。ネームを見ると名前の前に部長と書かれていた。若い医者にはお手上げだったのだろう。
「そういえば、今回の件。警察が何人かの少年を逮捕したらしいが、改めて告訴はするんでしょ?弁護士さんだもんね。当たり前かね。」と医師が尋ねた。
「いや、いいんです。僕の過剰敗北ですから。」
「過剰敗北?過剰防衛じゃなくて?」と医師が尋ね返す。
「僕はただ石を投げられただけで彼らを怯えさせることは何一つしていません。過剰敗北だったのです。僕は僕を釈放する予定です。」
「そうか、なかなか法律家の言うのことは難しくてよく分からんな。」と言いながら、医師は医局に引き上げていった。ドアが閉められ、すぐに開いた。
「あっ、そう言えば君の奥さんと息子が見舞いに来てたよ。今日の昼だ。君は寝ていたがね。お子さん面白いねぇ。バチが当たったんだねって言いながらヒッヒッヒって笑うんだよ。変な謎かけもしてきたなぁ。」
「謎かけ?」
「そう、謎かけ。『一生来ないものって何んだ?』ってね。分からないって言ったらまたヒッヒッヒって笑うんだ。面白い子だよ。」
「明日です。」と僕は言った。
「あぁそうか、明日か。なるほど。明日ね。」
「でも、今日。今だけかもしれませんが、僕にはその明日が来たような気がします。」
 僕の本心だった。

 やがて退院の日が来て、僕の睾丸は元通りの小ささになった。それでも歩くと酷い鈍痛だった。股間を引き摺りながら、病院を出ると慌てて担当の看護師が僕を追いかけて来た。
「先生、忘れ物です。これですよ、これ。」
 看護師が指すものは新調したばかりの僕のマントだった。僕はありったけの声で叫んだ。
「すみません、お手数ですが処分して下さい!」
 僕はスーパースターではなくなった。一人の夫として、一人の父親として生きることにしよう。彼らはきっと帰って来るだろう。只の僕の元に。