お父さんが成人したのは君とは違って20歳だ。20歳と18歳は全然違うけど、やはりお父さんが成人した時の話を君にしようと思う。成人が人生に一度きりであることには変わりがない。
成人する少し前、お父さんは駅前の京樽でバイトしていた女の子に恋をしていて、毎晩恨めしいニキビ顔と睨めっこしていた。
お父さんは毎週金曜日に納豆巻きをその子から買い続けることで好意を持って貰おうというお茶目な戦略を立てた。でも気付くとカルフォルニアロールを買っていた。それまでカルフォルニアロールなんて食べたことなかったのに「カルフォルニアロール」って言う響きに10代末期の美意識を感じていたのかも知れない。
駅の向こうには一級河川があった。木曜日の夜はその川に掛かった大きな橋を行ったり来たりした。明日こそ告白するぞって息巻いて、包茎の皮を根元まで捩じ込んでから橋の端から端まで全速力で走って、それでも包茎の皮が戻ってなかったら「明日告白しよう」って心に決めた。
そして、とうとう告白の日はやって来た。その日は偶然、二十歳の誕生日だった。そうやって迎えた誕生日の夕方、お父さんはニキビにクレアラシルを塗りたくって京樽の女の子を「塩とたばこの博物館」に誘った。お父さんが必死に考えたジョークに対する彼女の答えはノーだった。お父さんの恋は成人した日に終焉を迎えました。
君は今日、どんな気持ちで成人を迎えただろう。誰かに恋をしていますか?もう少し君が大人になって、一緒にお酒が飲める時が来る日を心待ちにしています。つまみはそうだな、カルフォルニアロールなんてどうだろうか。
成人した君に乾杯
五領院 静
サントリー角
※ストップ未成年者飲酒!20歳未満の飲酒は法律で禁止されてます。