埼玉県の離婚弁護士 レンジャー五領田法律事務所

【ライフスタイル】男たちの映画に見るワークアウト②『プッシュアップ』

映画「愛と青春の旅立ち」1982年〜CICパラマウント映画
映画「愛と青春の旅立ち」1982年〜CICパラマウント映画

映画はワシントン州シアトルの朝から始まる。全裸で寝ている父親と娼婦を横目に主人公のザック・メイヨ(リチャード・ギア)は幼少期のトラウマを再燃させていた。メイヨの母は幼少期に自害し、メイヨは父親の赴任先だったフィリピンで陰鬱な幼少期を送る。ジメジメと暗く腐った憂鬱な青春から訣別するため、メイヨは海軍の航空士官学校に挑戦することを決めた。そんなメイヨに父は「お前は士官には向かない。」と言う。呑んだくれの父は定年間際の曹長、つまり下士官だ。

入隊後彼を含め34人を待ち受けていたのは、海兵隊のドリルマスター・フォーリー(ルイス・ゴセット・ジュニア)の徹底的な罵倒と扱きだった。フォーリーは冷笑を浮かべながらソツなく訓練を熟すメイヨをマヨネーズに捩った「メイヨネーズ」と名付け特別に扱く。その理由は、高い能力を持ちながらも利己的で仲間と溶け合おうとしないメイヨに士官としての大切な品性が欠けていると判断したからだった。戦場で指揮をとるのは士官であり、隊員はその指揮官である士官に命を預けることになる。自分のことばかり考えている人間に隊員は命を預けない。階級だけの人間に士官は務まらないのだ。複眼的に見れば、フォーリーは呑んだくれで母親を自害に追い込んだ実の父が果たせなかった「父性」をその罵倒と扱きを通じてメイヨに注ぎ込んでいる。改めてこの映画を見返してみると、あらゆる有形力がまるで錬金術のように虐待とされてしまうチープなヒューマニズムの蔓延する今の世にあって「真の父性とは何か?」が問い掛けられているようも思えた。

物語はメイヨらが航空士官になる訓練の過程とメイヨとポーラ(デブラ・ウィンガー)の恋愛が並行して描かれている。基地周辺の町工場で働く女工にとって、将来パイロットになる士官候補生と結婚することが唯一と言っていい町から出る術だ。メイヨと男女の関係になったポーラはこう言う。「私、よかった?」と。その台詞には景気停滞期にあったアメリカの古き良き献身的な女性の終焉が漂う。日に日に衰えてゆく美貌と大空に飛び出そうとしている青年とのセックスの相性が閉塞した町から出て行くための唯一の生命線となる女たちの生き様が垣間見える。

ハリウッド史上に残ると言われるシーン、メイヨが訓練を終えポーラを工場に迎えに行くシーンは実はあまり好きではない。どうしてもこの二人は幸せにはならないのではないかと鼻白く感じてしまう。一つ分かって欲しいことは、俺がこの映画を単純で予定調和の恋愛映画としては見てはいないということだ。トラウマに苛まれる人間不信の青年が白昼堂々一人の女工をお姫様のように迎えに行く。この映画は厳しい父性を通して一人の青年が別の人間に生まれ変わるという青春譚である。

軍隊における訓練の本質は人間の矯正であり、人間を厳しく矯正することは誤解を恐れずに言えば、母ではなく父の役割である。卒業式閉会後、少尉は海軍の伝統に則って1ドル硬貨を誰か目下の軍人に手渡し、その者から最初の敬礼を受けることになる。今まで自分を扱いていた父としての下士官に対して「お前に感謝する。」と言って敬礼を先に下げる。須く敬礼をした者は敬礼をした相手より早く下げてはならない。下士官である父親も、いわばメイヨの育ての父であるフォーリーも少尉になったメイヨより先に敬礼をし、メイヨがそれを受けて下げるまで敬礼を下げることは出来ない。そんな夢のような物語を与えてくれる場所は逆説的に聞こえるかもしれないが軍隊、それも士官学校にしかない。

フォーリーに扱かれた極限状態でメイヨが「他に行く場所がない、行く場所がないんだ。」と叫んだシークエンスは一見して奇妙だが、軍隊に入る者はみな共通して「他に行く場所」がない。なぜなら、彼らはそこにしかないものを求め、その門を潜るからだ。すなわちメイヨにとって、陰鬱な青春と訣別する唯一の術が軍隊でパイロットになることだった。これが「他に行く場所がない」というメイヨの叫びに隠された本当の意味だと俺は思っている。それでは、お待ちかねのワークアウトを紹介することにしよう。

ワークアウト「プッシュアップ」
ワークアウト「プッシュアップ」

一人闇市のようなことをしていたのがフォーリーに見つかり、DORと呼ばれる任意除隊を迫られ拷問のような訓練を施されたメイヨだが、市井に生きる俺たちが極限状態まで「プッシュアップ」をするとなるとそれこそ軍隊に入るか、小一時間以上の時間が必要だ。そこでドロップセットと呼ばれるテクニックを使ってベンチプレスをした後、最終的に胸をプッシュアップでオールアウトさせるメニューを紹介する。所要時間は5分、ジェニファー・ウォーンズとジョー・コッカーの「Up Where We Belong」がどこからともなく流れて来て、オールアウトした後に「他に行く場所がない!」と叫びたくなったらワークアウトが成功した証だ。

<男の尊厳を取り戻すためのプッシュアップのワークアウト>

①マックス80%ベンチプレス…8回

②マックス60%ベンチプレス…10回

③マックス50%…10回

④マックス40%…16回

④プッシュアップ…限界レップ

⑤膝付けプッシュアップ…10回

⑥さらに額を地面に付け、プッシュアップの姿勢を取り続ける

P.S.セット間の休憩時間はない。