ボストン北西部に位置する「タウン」と呼ばれる小さな街では銀行強盗が親から子へと受け継がれていた。ダグ(ベン・アフレック)はそんな裏稼業を親から受け継いだ者の一人で、血と骨を分け合った仲間とともに一切証拠を残さない完全犯罪を生業としている。
銀行強盗の技術のみでなく、親からの複雑に入り組んだ柵さえも受け継いだ今の境遇から、ダグは抜け出そうとしていた。
とある銀行強盗でダグたち一味は女性の支店長クレア(レベッカ・ホール)を人質にとる。うまくやり仰たつもりだが、一つだけミスを犯してしまう。仲間の一人ジェム(ジェレミー・レナー)がクレアに首の刺青を見られたのだ。トラックの中には身分証が落ちていて、口止め役としてダグがクレアに接近することになる。コインランドリーのシーン。おそらくクレアは人質になった時に着いたシャツの血糊を洗い流すためにわざわざコインランドリーに来ている。しかし、その血糊を改めて見たクレアはいきなり泣き出してしまう。そんなクレアにダグは声を掛ける。「オレもネイルサロンで泣く。彼女たちにつらい思いを聞いてもらうんだ。君はコインランドリーか。」と。もちろんジョークであり不自然とも受け取れるのだが、男の優しさはそうやって滲ませなければならないという手本を主演とともに監督も務めたB・アフレックは示している。二人は恋に落ち、ダグはクレアを通して自らの新しい人生を見る。ハリウッド史上に残る名シーンだ。
そんなダグの前に自らが育った「タウン」が立ちはだかる。ダグ以外の仲間は「タウン」から出ることを望んでいない。「タウン」でしか生きられない人間たちなのだ。特に、ジェムはダグが自分の元から離れていくことを決して許さなかった。一方でダグもジェムとの関係を簡単には断ち切ることが出来ないでいた。ジェムの妹(ブレイク・ライヴリー)の子供は恐らくダグの子で、またジェムはダグを殺しに行こうといていた男を殺害し、9年刑務所に食らい込んでいたという経緯がある。
さらに、ダグたちは親の代から元締めの花屋ファギー(ピート・ポスルスウェイト)に徹底的に管理されていた。ダグの母親はダグが6歳の時に忽然と姿を消している。ダグは1年前そうやって飼い犬が戻って来たことから街じゅうに張り紙を出したが、母親は結局帰って来なかった。刑務所にいる父親は、その真相を語ろうとしない。しかし、その真相をダグは花屋ファギー自身から聞かされることになる。父親が花屋から独立しようとしたため「去勢」と呼ばれる儀式で母親はコカイン漬けにされ街で首を吊って自殺をしたというのだ。花屋はその真相をダグに聞かせた後にこう言う。「お前も去勢されたいか?」と。
その後も銀行強盗は行われるが、次第に彼らの暗躍も綻びを見せ始める。ラストの強盗の舞台は大リーグスタジアム。そこで行われるガンアクションはアルパチーノの傑作「HEAT」を彷彿させる圧巻ものだ。ダグの仲間たちは「タウン」での生き様を総決算するように一人ずつ死んでいく。果たして、ダグは「タウン」との決別し、クレアと新しい人生を歩めるのか?その結末は各々がその目で確認してくれ。
本題に入ろう。今回この「タウン」という映画で紹介するワークアウトは「リバースチンニング」だ。冒頭でダグがジェムに酒を勧められるシーンがある。ダグがそれを断り、カウンターでジュースを注文した後に幼馴染とファックをして中途で終わり、女が去ったベッドで眠れずにいたところから突如そのシーンは始まる。男が今までの係累を断ち切ろうとする覚悟をアルコールとワークアウトのシンメトリーにアンチクライマックスに終わったファックを介在させることによって見事に暗喩した至極のシーンだ。ただ、地下を思わせる暗闇の中でのワークアウトは僅か10秒ほどで、こと「リバースチンニング」に関しては1レップのみで一瞬しか映されない。
ところで、俺はこの映画を見た次の日にもう一度この映画を見に劇場に足を運んだ。「リバースチニング」のシーンをもう一度見たかったからだ。具体的に確認したかったのは、B・アフレックがいわゆる懸垂を順手で行っていたか、逆手で行っていたかという点だ。どうして、B・アフレックが順手で行う「チンアップ」とも呼ばれるチンニングではなく、逆手で行う「リバースチンニング」をチョイスしたのかは後日、自分でやってみてすぐに分かった。順手より逆手でやった方が、腹直筋全体の収縮感が断然に強かった。逆手で行うと上腕二頭筋の関与が強まると言われるが、このシーンでは腰を突き出して胸をバーにつけるように動作を行っているため広背筋をワークアウトでしていることには変わりがない。つまり、突如現れたB・アフレックの腹直筋に俺がオスとして圧倒されたことは、順手を逆手にすることによって意図的に計算されていたということになる。
その後に何度も見たが、まさに教科書通りのチンニングだった。一気に引き上げ、じわじわ降ろすことで、筋繊維に相互に摩擦を起こさせている。男の筋破壊、もっと言えば自己を破壊して新しくなろうとする様が描かれている。
日常で、尊厳を喪う機会だけが増えていき、尊厳を回復するチャンスは二度と現れないように感じてしまう時がある。そんなとき俺はダグを微かに、いや強烈に意識して天井を睨みつけながら「リバースチンニング」をする。生まれ育ったところから訣別するために、必死に覚悟を塗り重ねていたダグの心情を想像しながら限界まで自分を引き上げる。
男の尊厳を取り戻すためのワークアウトメニューを載せておく。いずれも限界レップで設定してある。出来なくなってもすぐに諦めないことだ。男のワークアウトにはそいつの生き様が滲み出る。自分には、自分に対してだけは、決して嘘を付かないことだ。俺にそのことを約束してくれ。
<男の尊厳を取り戻すためのチンニングのワークアウト>
①ワイドグリップチンニング(順手)…限界レップ
②クローズドグリップチンニング(順手)…限界レップ
③ワイドグリップチンニング(逆手)…限界レップ
④①〜③のいずれかでジャンプして引き上げた状態から降ろすネガティブ動作…10回
P.S.インターバルは1分以内だ。